神戸市における新型コロナウイルス感染症流行期の行動変容とその健康への影響に関する分析

実施期間

2023年8月 - 2025年12月

連携機関

研究代表機関: 一般社団法人日本老年学的評価研究機構 (JAGES)
協力機関:神戸市(兵庫県)
主任研究者: 近藤克則 (JAGES/千葉大学)、近藤尚己 (JAGES/京都大学)

研究対象地域

神戸市(兵庫県)

総予算

US$ 190 000.00

背景

パンデミックの初期段階では、世界中の多くの人々が、新型コロナウイルス感染症への恐怖、移動制限、医療費の負担などの理由から、必要な医療を受けることができませんでした。 日本では、身体活動、社会活動に関して頻度の減少などのライフスタイルに変化のあった高齢者が多く、そうした変化によって健康状態を悪化させるリスクが高まった可能性が研究で示されています。しかしながら、そうした新型コロナウイルス感染症の流行により引き起こされた行動変容が、健康に与えた影響の調査研究は世界的にも日本国内においても不十分です。

目的

新型コロナウイルス感染症のパンデミック前後における、神戸市の20歳以上の成人の行動変化と、これらの行動変化が同集団の健康に及ぼす影響について解明する。

方法

  • 2016 年から 2023 年までの保健、医療、介護サービスの利用と、人々の健康とライフスタイル調査に関する神戸市の行政データの横断的および縦断的分析。
  • 新型コロナウイルス感染症流行前後の健康行動、生活機能や健康、身体機能、孤独・孤立、口腔衛生、健診や医療の受診、新規要介護認定などに与えた影響とその関連要因、またパンデミックの各フェイズにおける医療アクセス・健康アウトカムへの影響の地域間の格差を検証する。
  • 研究データには次のものを用いました。
  1. 2016年4月1日~2023年3月31日までの神戸市「ヘルスケアデータ連携システム」に登録されている20歳以上の神戸市民約400,000人
  2. 神戸市がJAGESと共同で65歳以上の市民を対象に2016年、2019年、2022年に実施した「健康とくらしの調査」の回答者(2016年:12,107人、2019年:10,668人、2022年:11,070人)
  3. 神戸市がJAGESと共同で20歳~64歳の市民を対象に2018年に実施した「市民の健康とくらしに関する調査」の回答者(5,609人)及び、2023年に新たに実施した「市民の健康とくらしに関する調査」の回答者(5,345人)

主な結果

本研究は、都市環境におけるCOVID-19パンデミックにおける市民の行動・健康への影響を明らかにしました。行政の医療データと住民調査データを合わせて分析することにより、地域社会における脆弱性とレジリエンス(回復力)双方の要因が示唆されました。

主な成果

  • 行動変容: 若年層・高齢層ともに社会参加や交流の機会が減少しましたが、高齢者においては「通いの場」や就労活動への参加が例外的に増加しました。特に「通いの場」などの地域活動は高齢者への悪影響を軽減したことが示唆されました。
  • 健康への影響: 若年層ではうつ病や不眠の増加が見られ、高齢層では虚弱や高血圧が増加し、年齢層によって異なる精神的・身体的影響が示唆されました。
  • 予防: パンデミック中、健康診断の受診率が大幅に低下し、特に社会的孤立者や低所得層で顕著でした。
  • 健康格差: 市内地域間の比較から、地域間に存在する健康格差を把握し、課題を抱える地域に焦点を当てた政策対応の必要性が示唆されました。

これらの知見は、神戸市がデータ駆動型・地域中心のレジリエンス(回復力)を備えた都市として、今後の健康危機への対応モデルとなることを示しています。

政策への示唆

本研究は、神戸市にとって、地域の公衆衛生政策を強化し、将来の緊急事態に備えるための具体的なエビデンスを提供しています。得られた知見に基づく政策提言は以下の通りです。

  • 地域参加の推進と継続: 「通いの場」などの活動を拡充・継続し、社会的孤立、フレイル、健康格差を減らす。
  • 予防医療サービスの継続: 危機時にも健康診断が継続できるよう、アウトリーチやデジタル技術を活用する。
  • 地域間格差への対応:高リスク地域に重点を置き、資源配分や対策を最適化する。
  • データ統合とガバナンスの促進: 医療・介護・福祉データの統合を進め、迅速で根拠に基づく意思決定を実現する。

出版物

学術論文等の出版物は2026年以降に発表される予定です。