WHOアメリカ地域における高齢者の社会的ケアに関わる満たされていないニーズの定量化
実施期間
連携機関
代表研究者:フラビア・アンドラ―デ(イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校、アメリカ合衆国)、ネキア・カシエ(ロードアイランド大学、アメリカ合衆国)
研究協力者:パトリシア・モルシュ(WHOアメリカ地域事務局・汎アメリカ保健機関)
総予算
背景
WHOアメリカ地域では、国によってそのペースに差はあるものの、全体的に急速な高齢化が進んでいます。これに伴い日常生活動作(activities of daily living: ADL)や手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living: IADL)の支援、つまり医療ではなく社会的ケアを必要とする高齢者が増加しています。こうしたケアのニーズが満たされないと、人々の健康や生活の質に深刻な影響を与えかねません。北米諸国は全般的に社会福祉制度が整っている一方、多くのラテンアメリカ・カリブ海諸国は、人口高齢化に対応するための資源が少なく、家族による介護に強く依存しています。このような社会的・制度的な背景の違いによって、高齢者のケアニーズが満たされない要因や水準にも差異が生じると予測されます。アメリカ地域の各国で急速に進化する、介護を含む継続的ケア(LTC)の制度を効果的に構築するためには、社会的ケアの満たされていないニーズの定量的評価が不可欠です。
目標
WHOアメリカ地域に属する9カ国における高齢者の社会的ケアに関わる満たされていないニーズを推計し、それと関連する個人属性や社会的要因を特定する。
研究方法
本研究では、WHOアメリカ地域に属する9カ国(アルゼンチン、ブラジル、チリ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、メキシコ、プエルトリコ、アメリカ合衆国)でそれぞれ実施された人口調査データに基づき、未充足の社会的ケアニーズおよび支援や介護の受給の有無について二次解析を行いました。ADLおよびIADLに関するケアのニーズと支援・介護の受給状況については、自己申告データを用いて評価しました。
研究結果
- ADLのケアニーズは国によって大きく異なり、チリとプエルトリコで最も高い水準を示しました。
- 各国におけるケアニーズは、ADLよりもIADLが多い傾向でした。一方で、未充足のケアニーズは、IADLよりもADLに多く見られました。
- 高齢者の属性や社会的背景と関連して、社会的ケアのニーズに差異が認められました。具体的には、年齢の増加、教育や所得の水準の低さ、および地方での一人暮らしが、ケアニーズが高くなる要因でした。一方で、支援・介護の受給状況には、属性や社会的背景に関連する明らかな差異はありませんでした。
本研究による示唆
本研究の結果から、特に急速な高齢化が進むラテンアメリカ・カリブ海諸国を含む、WHOアメリカ地域の広範囲で、高齢者の社会的ケアのニーズを満たすためのLTC制度の欠如や不備が示唆されました。包括的なLTC制度の構築に取り組む国は増えているものの、そうした制度のカバレッジは依然として限定的であり、ケアの大部分はいまだにインフォーマルな介護者によって無償で提供されています。国家レベルのLTC政策や制度の策定・拡充と、インフォーマルな介護者への支援を優先していくことが不可欠と言えます。
出版物
学術論文等の出版物は2026年以降に発表される予定です。