新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)

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SARS-CoV-2の起源(2020年3月26日版

2020年3月25日 | Q&A

文(英語)

現在までにヒトから分離されている全てのSARS-CoV-2は、コウモリの集団、具体的にはキク ガシラコウモリ属から分離されたコロナウイルスと遺伝学的に密接な関係がある。2003年に 発生したSARSのアウトブレイクの原因となったSARS-CoVも、コウモリから分離された コロナウイルスと密接な関係がある。これらの密接な遺伝学的関連は、これら全てのコロナウ イルスがコウモリに生態学的な起源があることを示唆している。キクガシラコウモリ属の コウモリは、アジア、アフリカ、中東、ヨーロッパに渡って発見されている。SARS-CoV-2は、 家畜や飼育動物で見られるその他の既知のコロナウイルスには遺伝的に関連していない。 ウイルスのゲノム配列決定の解析からも、SARS-CoV-2はヒト細胞上の受容体に非常によく 適合しているため、ヒト細胞に侵入し、容易に人に感染することが可能であることが 示された。

ヒト症例から分離されたSARS-CoV-2の、全ての公表されている遺伝子配列は非常に類似して いる。これは中国の武漢市でウイルスがヒトにおいて最初に報告された頃に、ヒトの集団に 対して単一の導入が起きたことがアウトブレイクの開始であることを示唆している。公表され た遺伝子配列の解析は、動物の発生源からヒトへのスピルオーバーが、2019年の最後の四半期 に発生したことをさらに示唆している。

WHOは中国におけるSARS-CoV-2の発生源の特定を含めて、SARS-CoV-2に起因するCOVID 19 の管理のために、ギャップと研究の優先順位を特定するために、専門家、加盟国、その他の パートナーとの連携を継続していく。

現段階では、中国におけるヒトがどのようにSARS-CoV-2に最初に感染したのかを正確に特定 することはできない。しかし、利用可能な全てのエビデンスからは、SARS-CoV-2は自然の動物 由来であり、操作されたウイルス、あるいは構築されたウイルスではないことが示唆されて いる。

SARS-CoVは、2003年のSARSアウトブレイクの原因となったウイルスであり、おそらく コウモリの生態系に保有宿主を持っており、動物の保有宿主(ジャコウネコや飼育されている 野生動物)からヒトへと飛び火し、ヒトの間で拡大していった。同様に、SARS-CoV-2は種の 壁を飛び越え、別の動物の宿主からヒトへと最初に感染したと考えられている。通常はヒトと コウモリの間の濃厚接触はごく限られているため、ヒトへのSARS-CoV-2のヒトへの伝播は、 ヒトが扱う可能性がより高い別の動物種を中間宿主として発生した可能性がより高い。この中 間宿主に相当する動物は、家畜、野生動物、または飼育されている野生動物である可能性が あり、まだ今のところ特定されていない。

中国のアウトブレイクの発生源とされる地域では、現在もいくつかの調査が進行中、あるいは 計画立案中である。これらの中には、2019年に武漢とその周囲における症状が出現したヒト 症例の調査、ヒト初発例が確認された地域の市場や農場からの環境サンプルの抽出、これらの 市場で売られている野生動物や家畜の出どころや種類に関する詳細な記録が含まれる。

このウイルスの発生源が特定され、管理されるまで、ヒトの集団へのウイルスの導入のリスク と、現在経験しているような新たなアウトブレイクのリスクがある。

COVID-19 初発例が2019年 12月下旬に報告してからできる限り早急に、COVID-19の疫学と アウトブレイクの発生源を把握するための調査が実施された。2019年12月下旬から2020年 1月上旬の初期の症例は、海産物、天然、養殖の動物が販売されていた、武漢市にある華南海鮮 卸売市場に直接的な関連を持っていた。初期の症例のうち多数は、市場の区画の所有者、従業 員、この市場を定期的に訪れる人のいずれかであった。2019年12月にこの市場から採取された 環境サンプルはSARS-CoV-2に対して検査陽性であった。これはこの市場が今回のアウトブレ イクの発生源であること、あるいはアウトブレイクの最初の拡大に関与したことをさらに示唆 している。2020年1月に市場は閉鎖され、清掃と消毒が行われた。ウイルスは市場内で動物か らヒトの集団に持ち込まれた可能性と、感染した人がウイルスを市場に持ち込み、そこでウイ ルスが市場の環境で拡大した可能性がある。ヒト初発例のその後の調査では、2019年12月1日 頃に症状が出現したことが判明している。しかし、これらの症例は華南海鮮卸売市場との直接 的な関連がなかったため、11月に未検出の早期症例との接触を介して感染した可能性がある (暴露日から症状出現日までの潜伏期間は最大14日間)。ヒトでの未確認の感染が、2019年 11月中旬に早くも発生していた可能性があるか、追加の研究が現在も進行している。

現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、SARS-CoV-2と命名された コロナウイルスによって引き起こされている。コロナウイルス(CoV)は複数のウイルスを含む 大きなウイルス科である。それらのうちのいくつかは、一般的な風邪から、重症呼吸器症候群 (SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)といった稀で重篤な疾患までを含む、ヒトの呼吸器 疾患の原因となる。SARSとMERSはいずれも死亡率が高く、それぞれ2003年と2012年に 初めて検出された。

コロナウイルスは、α-、β-、γ-、δ-CoVの4つの属に分類される。現在、ヒトに疾患を引き 起こすことが知られている全てのコロナウイルスはα-CoVとβ-CoVに属している。これらの コロナウイルスの多くは、いくつかの動物種にも同様に感染する可能性がある。SARS-CoVは ハクビシンに感染し、2002年にヒトに感染した。MERS-CoVはヒトコブラクダにおいて認めら れ、2012年にヒトに感染した。動物からヒトに通常に感染するウイルスは人獣共通感染症 ウイルスと呼ばれる。ウイルスが初めて動物からヒトに感染したときのことを、スピルオーバー と呼ぶ。

新種のウイルスが発見されたときには、それがどこから来たかを理解することが重要である。 これはウイルスの発生源を特定して分離し、ヒトの集団へのウイルスのさらなる導入を予防す るために必要不可欠である。またこれは、公衆衛生上の対応に示唆を与える、アウトブレイク の初期の動態を理解するうえでも役に立つ。ウイルスの起源を理解することは、治療薬や ワクチンの開発にも役立つ可能性もある。

ウイルスの発生源や起源を特定するためには、ウイルスの遺伝子構造を調べ、その他の既知の ウイルスと共通点があるかどうかを確認することが有用である。これによりその起源の手がか りが得られる可能性がある。遺伝的に密接に関連があるウイルスは、類似した発生源または地 域から出現する傾向がある。COVID19の原因のウイルスであるSARS-CoV-2は、SARS-CoVを はじめ、コウモリの集団から分離されるその他の多数のコロナウイルスを含む、遺伝的に関連 があるウイルスのグループに属している。MERS-CoVもこのグループに属しているが、関連は より弱いものである。

また、感染した可能性がある場所についての情報を得るために、最初の既知のヒト症例を詳細 に調査、聴取することも必要である。これにより、それ以前に感染した可能性のある症例を 特定したり、初感染が起きた地域と期間を限定したりする上で役に立つ可能性があり、発生源 を特定するためにより具体的な調査が行えるようになる。

現在のところ、SARS-CoV-2における人獣共通感染症の発生源は未知である。SARS-CoV-2に よって引き起こされたコロナウイルスによる疾患であるCOVID-19のヒト初発例は、2019年12 月に中国武漢市から報告された。