西太平洋地域における高齢者の医療・社会的ケアに関わるアンメットニーズの定量化とその政策要因の分析
実施期間
連携機関
代表研究機関:オーストラリア国立大学(オーストラリア)、フレッド・ホローズ財団(オーストラリア)
協働機関:WHO西太平洋地域事務局、カンボジア・ベトナムの各WHO国事務所
総予算
背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行により、医療に関わる満たされていないニーズ(アンメットニーズ)に対する意識が高まり、2023年の世界保健総会では、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ推進に向けた各国の進捗を評価する新たな指標として、医療のアンメットニーズを検討することが提言されました。一方、特に高齢者の自立と健康アウトカムにとって重要となる、社会的ケアに関わるアンメットニーズは、いまだ見過ごされている状況です。
これまでの研究からWHOの西太平洋地域では、少なくとも15カ国が医療・社会的ケアのアンメットニーズに関するデータを有し、高齢者のアンメットニーズにかかわる政策の影響を調べることが可能であると考えられました。 本プロジェクトでは、カンボジア、中国、ベトナムのデータを用い、各国における政策との関連を調査しました。
目標
カンボジア、中国、 ベトナムの各国における、2005年から2023年までの医療・社会的ケアに関わるアンメットニーズを推計し、それに影響を与える可能性のある2000年から2020年までに施行された関連政策を特定する。
研究手法
- WHOおよびWHO以外の機関が実施した調査のデータを用いて、対象3カ国のアンメットニーズの水準と変化(2005年~2023年)を統計的に分析する。
- 各国における過去10~20年の主な関連政策をはじめ、医療制度上あるいは社会経済的な変化に関するデスクレビューを行う。
- これらの主要な政策と、医療・社会的ケアのアンメットニーズを時系列で対応させ、 ニーズに対処する手段となりうる政策を検討するとともに、アンメットニーズを増加させる可能性のある政策・プログラムも特定する。
- 関連政策やその他の背景要因などに関する現地の知識を得るため、各国の専門家、WHO国事務所、WHO地域事務局への聞き取り調査を実施する。
研究結果
- 中国、カンボジア、ベトナムの各国において、全人口あるいは高齢者層における医療・社会的ケアの満たされていないニーズを推計するために活用できる人口ベースの調査が複数特定されましたが、社会的ケアのニーズに関するデータは比較的少ないという結果でした。
- 総じて、医療のニーズよりも社会的ケアのニーズが満たされていない傾向が認められました。自己申告式の調査データをもとにしたアンメットニーズの推計値は、実際の水準よりも低く報告されている可能性のあることが、専門家への聞き取りから示唆されました。
- 医療へのアクセスを阻む主な要因は、経済的な理由や情報不足などに関連するものでした。一方、社会的ケアについては、介護の主たる責任を家族に課す強い文化的・法的規範により公的制度の発展が阻まれていることや、社会状況の変化によって家族による介護が難しくなっていることなどが主要な障壁となっていると言えます。
- 研究対象国において特に高齢者の医療・社会的ケアのニーズに影響を与えた可能性のある政策および法令として、カンボジアの「国家高齢者政策(2017-2023年)」及び「社会保護枠組み(2016年)」、中国の医療改革(2009年)、 ベトナムの健康保険法、高齢者法(2009/2010年)、国家高齢者プログラム(2012-2020年)などが特定されました。専門家への聞き取りからは、これらの政策等の実施状況と影響が、国内の地域間で不均一であることが指摘されました。
本研究による示唆
カンボジア、中国、ベトナムにおける人口増加と高齢化に加え、WHO西太平洋地域の大部分で進行する非感染性疾患の増大により、今後、医療および社会的ケアの需要が急増すると見込まれます。本研究を通じて得られた政策データ、専門家の知見、調査データからは、各国におけるケアニーズが過小評価されている可能性が示唆されました。適切な制度改革がなされなければ、より多くの高齢者がアンメットニーズにより健康状態と生活の質の低下に直面し、国の保健医療計画や家族の役割・責任といった社会構造にも広く影響を及ぼすと考えられます。
出版物
学術論文等の出版物は2026年以降に発表される予定です。