メンタルヘルスと心理社会的サポート(MHPSS)介入

メンタルヘルスと心理社会的サポート(MHPSS)介入

災害・健康危機は、メンタルヘルス上のリスクと心理社会的な問題を大きくします。メンタルヘルスと心理社会的サポート(MHPSS)が適切なタイミングで行われれば、これらのリスクを小さくし、回復を後押しし、レジリエンスを育むことができます。WHOは、災害・紛争等緊急時におけるMHPSSに関する機関間常設委員会(IASC)準拠委員会の共同議長を務めています。同委員会は、非常事態下で活動する諸機関や、50カ国を超える国レベルのMHPSS技術ワーキンググループに対してアドバイスと支援を提供しています。

非常事態下では、すべてのフェーズ、即ち、準備、予防、対応および復興において、MHPSS介入の必要性が高いと考えられるようになりました。この考えに基づいて、MHPSSに関するIASC準拠委員会は、2007年に『災害・紛争等緊急時におけるメンタルヘルスと心理社会的サポートに関するIASCガイドライン』を作成しました。このガイドラインの狙いは、人道支援関係者やコミュニティが最低限の一連にわたる組織横断的対応を計画、策定、実施できるよう支援を提供することにあります。こうした支援を受けた人道支援関係者やコミュニティであれば、非常事態発生後のできるだけ早いタイミングで、人びとのメンタルヘルスと心理社会的ウェルビーングの保護や改善に向けて動き出すことができるのです。

MHPSS介入(問題の早期発見を含みます)は、適切なタイミングで、かつ、適切な期間にわたって提供されてこそ効果を発揮します。メンタルヘルスに生じる急性の影響、そして長期にわたる影響双方への対応が必要であることについては、多くのエビデンスが積み上げられているのですが、多岐にわたるMHPSS介入について、適切な時間軸を明らかにするのは、依然として容易なことではありません。そのような困難はありますが、最新のエビデンスでは、備えと予防から対応と復興まで、災害のあらゆるフェーズにおいてMHPSSを提供することの重要性が強調されています。

備えと予防のフェーズ

非常事態が起きると、多くの場合、メンタルヘルス上の問題の生じるリスクが増します。だからこそ、準備・予防段階でMHPSSを提供し、非常事態が引きおこす影響を軽減することが必要なのです。災害危機管理においてますます重要視されているのは、非常事態が生じる前にメンタルヘルス上のリスクを軽減するため、予防的で先回りした手を打つことです。これまでのところ、MHPSSがこの初期段階に十分活用されているとは言い難いのですが、MHPSSに関するガイドラインやトレーニングのための資料の開発が進み、このギャップを埋める取り組みも始まっています。

関連ツール

 

テクニカルノート 防災(DRR)とメンタルヘルスと心理社会的サポート(MHPSS)をつなぐ:実践的ツール、アプローチとケーススタディ (2021年)(仮訳)

緊急時・切迫時の対応フェーズ

危機が生じてしまった場合に、極めて重要なのは、適切なタイミングでMHPSSを提供することにより、急性ストレスの症状を緩和し、長期にわたる健康上の問題を予防することです。緊急事態においては、多様なニーズに応じた様々なMHPSS戦略が必要となります。この点は『スフィア基準』や『災害・紛争等緊急時におけるメンタルヘルスと心理社会的サポートに関するIASCガイドライン』で強調されています。これらのガイドラインは、組織横断的対応を重要視しています。組織横断的対応の内容には、コミュニティ主導の支援から医療制度の一部である正規のサービスに至るまで多様なものがあります。組織横断的対応を行う際に、決定的に大切なのは、基本的なこころのケアサービスが、すべての医療施設において提供されること、そして、こころのケアサービスが、包括的なMHPSS対応に支えられていることです。効果的な備えと迅速な行動は、非常事態に襲われた地域をいち早く復興させ、地域のこころのケア・システムのレジリエンスを将来に備えて補強するための鍵なのです。

MHPSS介入ピラミッド

IASCのMHPSS介入ピラミッド(2007年)は、MHPSSに対する支援を、相互補完的な4層に分類し、これらすべてのサービスが同時に提供されるべきことを強調しています(図1参照)。重要なのは、介入を設計する際に、支援の対象となる人びとの具体的なニーズを考慮し、最大の効果を狙うことです。

図1 MHPSS介入ピラミッド
Adapted from IASC Guidelines, 2007 [2]
図1 MHPSS介入ピラミッド
© クレジット

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MHPSS ミニマムサービスパッケージ

復興と再建-緊急対応フェーズに続くもの

大きな危機がメンタルヘルスに及ぼす影響は長く続くことがあります。このフェーズでのMHPSS介入は、対象となる地方を取り巻く状況やその地方にあるリソースに合わせて調整された、実践的な支援と意味のある情報を提供するものでなくてはなりません。

「より良い復興」の考え方によれば、非常事態を医療システム改善の機会と捉えることが重要です。このとき役に立つのが、非常事態をきっかけに急増する支援や、メンタルヘルスケアを持続的な形で改革していこうとする政治的気運の高まりです。WHOの報告書『より良い復興:非常事態後の持続可能なメンタルヘルスケア(仮訳)』には、そこに取り上げられた国々が、非常事態をきっかけとして、どのように自国内の住民のためのメンタルヘルスシステムを変革したのかが描かれています。

このアプローチで必要となるのが、コミュニティの自助の強化、社会的支援、そして主流派ではないグループを問題解決や復興活動へ巻き込んでいくことです。