ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ達成に向けた取り組みが進む中、取り残されている人々を見定めるため、WHO神戸センターは高齢者の医療・社会的ケアにかかわる未充足のニーズ測定に関する研究のポートフォリオを作成しています。
2024年6月10、11日、当センター主催の会合に、高齢者のケアにかかわる未充足ニーズの理解に取り組む、注目の分野のWHO地域内関係者と学術関係者にお集まり頂きました。必要なケアを利用できていない場合の多くは、費用や経済的な保護の欠如が原因となっていることが複数の研究で示されました。これは高齢化と経済的保護に関する知識や関心と、ニーズの測定や保健医療の制度が重なる領域で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジのモニタリングに関わっています。
主催した当センターのローゼンバーグ恵美技官は「満たされていないニーズには、ケアのニーズを認識しておらずケアを利用していない場合から、ニーズを認識していながらも何のケアも利用していない場合や不十分なケアに甘んじている場合まで幅があります。」と述べています。
また、「満たされていないニーズを測定し問題の程度を知ることは、特に重要です。ところが、広く適用できる唯一の方法というものはなく、定義はさまざまで、測定方法も標準化されていません。このため、各国内や各国間での比較が難しくなっています。」とコメントしています。
このような状況ではあるものの、現在利用できるデータからでも、各国にとって重要な知見が得られることが、本会で明らかになりました。ある集団の医療のニーズがどの程度満たされていないかという情報は、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジのモニタリングに現在使用されている指標である「サービスのカバレッジ」と「経済的困窮」を補完し、その妥当性を評価するのに役立ちます。高齢者の医療・社会的ケアにかかわる満たされていないニーズを知ることは、人口が高齢化する中、保健医療制度を再設計する際の指針となります。
当センターが設立を支援したCARETRACKコンソーシアム理事長でロンドン大学衛生熱帯医学大学院のシーラン・フセイン教授は、東地中海地域について発言した際にデータの重要性を強調し、次のように述べていました。
「データを得るには、各国の政策立案者の賛同が必要です。そのためには、継続な関わりと、高齢者を支援することが全世代を支援することになるというエビデンスを示すことが求められます。」
「その費用対効果は大きく、労働市場で最も活躍する人々にのしかかることが多いケアの負担を軽減し、生活の質を向上させることになります。自動的に、フォーマルな保健医療制度への圧力も軽減されます。データやエビデンスが存在するのであれば、たとえ小規模であっても活用し、発表して議論する場を設ける必要があります。」
本会では、データの収集と解析の指針に使用可能な医療・社会的ケアの未充足ニーズの指標に関して、定義が提案されました。また、学術誌の特集や2024年11月に長崎で開催されるHealth Systems Global のシンポジウムなど、さらなる研究や情報発信のプラットフォームを設けることは政策に影響を与える戦略的な機会になることが確認されました。
会合の報告書は近日中に公開予定です。