WHO神戸センターは、新著『The care dividend: why and how countries should invest in long-term care(ケアの配当:各国が継続的なケアに投資すべき理由とその方法)』(ケンブリッジ大学出版局)から、介護を含む継続的なケアに投資すべき4つの重要な理由をクローズアップし、政策立案者向けにその概要を発表しました。
これらの概要は、WHO神戸センターのサラ・ルイーズ・バーバー所長、トリエステ大学のルドヴィコ・カリノ准教授、欧州保健医療制度政策観測所のジョナサン・サイラス氏、WHO欧州地域事務局のステファニア・リンカ氏、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス保健政策学部のジョージ・ワートン准教授により執筆されました。
経済的理由:高齢化が進む世界における経済成長の促進【リンク(英語)】
- 人口高齢化が進む中、継続的ケアに公費を投資することは国にとって重要な経済戦略となります。強固な継続的ケアの制度は経済成長を促し、雇用を創出し、インフォーマルな介護者の雇用を支援するため、高齢を迎える多くの人の退職に伴い懸念される経済成長の鈍化を埋め合わせることができます。
- 継続的ケアへの投資は、高齢者のニーズに対応するための機器・用具等やサービスの開発を促し、徐々に増加する継続的ケアに対する政府の支出を上回るような潜在的な経済力を新たに引き出す可能性があります。
- 継続的ケアに十分な投資を行わず、インフォーマルな介護者(主に女性)に依存する国は、インフォーマルな介護者の離職を防いだり、雇用を支援したりするための投資を行う国と比較して、経済成長の機会を失うことになります。
「適切な時期に断固とした政策措置を講じることで、高齢者の福祉を確保し、持続可能な経済成長を促すことができます。重要なのは、各国がそれを負担できるかどうか(財源として税金を引き上げると経済成長を鈍化させるか)ではなく、インフォーマルな介護に従事する人の雇用を支援し、その人たちの持つスキルが最も生産的となる場で働けるようにすることで経済の減速を防ぐことです」と著者らは述べています。
保健医療制度に関する理由:継続的ケアの制度と保健医療制度の重要な連携【リンク(英語)】
- 保健医療制度と継続的ケアの制度を連携させることは、高齢者の健康や機能維持、社会面や感情面でのケアのニーズを支援するために不可欠です。
- 強固な継続的ケアの制度は、予防可能な入院を防ぎ、適切なケアを提供し、保健医療制度の持続可能性を守るために欠かせません。同様に、強固な保健医療制度によって、身体機能の向上が促され、老後の継続的ケアの需要を減らすことにつながります。
- 継続的ケアに対する支援がない場合、高齢者が社会的入院で病床を占有し、保健医療制度が崩壊し、医療費の増加と各種リソースの逼迫につながる可能性があります。
「継続的なケアは、高齢者の医療・社会的ケアの未充足ニーズに関連する医療費を管理する上で重要な戦略となります。各国は、人々の生涯にわたって健康に投資することで、継続的ケアの制度が必要になる時期を遅らせたり需要を低減させたりできます。保健医療制度と継続的ケアの制度はいずれも、高齢者の健康と福祉の要であり、そのニーズを管理するために適切に制度を連携させる必要があります」
社会生態学的理由:強固なケアの制度による人々の健康と経済的福祉の向上【リンク(英語)】
- しっかりとした構造の継続的ケアの制度は、高齢期の福祉の基盤となります。医療および介護費の自己負担による経済的困窮から人々を守り、人々の尊厳や自己決定、健康、安全といった基本的な権利を保障します。
- 年齢とともに継続的ケアのニーズが急増するため、人口高齢化は、継続的ケアのニーズに直接影響します。各国で平均寿命と健康寿命との差が拡大しつつあることから、保健医療や継続的ケアを何年も必要とする人の増加が示唆されます。特に女性は長寿であることが多いため、継続的なケアの恩恵をより多く受けます。一方で、女性の収入は低い傾向にあるため、必要なケアへのアクセスを阻む経済的な障壁を、継続的ケアの制度によって克服できるようにすることが重要です。
- 多くの人は、フォーマルな継続的ケアのサービスを利用するのに必要となる高額な貯蓄ができません。経済的保護を含む継続的ケアの制度がない国では、このような費用を完全に家計が負担することになり、貧困のリスクが高まります。
「各国政府は、継続的ケアの制度に対して公的資金の投入を拡大したり自己負担額の上限を設定したりするなどの大胆な政策の導入によって、あらゆる世代の経済的困窮をすみやかに軽減し、生活水準を向上させることができます。強固な継続的ケアの制度への投資は、高齢者の精神的・身体的健康と福祉を向上させる重要な手段です。政策立案者は、福祉の向上と経済的保護という点で、継続的ケアのサービスの対象を拡大する必要があります」
政治的理由:政府はケアに関するイノベーションをどのようにリードできるか【リンク(英語)】
- 21世紀の人口動態における最も重要な変化は人口高齢化であり、長寿命化、出生率の低下、および世界的な人口増加によって起きています。
- 継続的ケアのニーズは、フォーマルな継続的ケアの制度とインフォーマルな介護者により満たすことができ、それがなければ、ニーズは満たされないままとなります。
- 継続的ケアを改革するための鍵は各国政府が握っています。各国政府は、リソースを調達し、ケアを受ける人を認定する公平な基準を設け、経済的保護とケアの質を確保し、強力な人材育成に投資することができるのです。
「政府のリーダーシップによって、高齢化社会の真のニーズに即したかたちで継続的ケアの資源配分を行えます。政策決定者は、政策、資金、イノベーションを統合し、質の高い持続可能なケアを高齢者が受けられ、家族やコミュニティーが人口動態の変化による影響で疲弊するのではなく繁栄できる未来を創れるのです」
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WHO神戸センターは、人口高齢化を踏まえたユニバーサル・ヘルス・カバレッジ推進に向けた動きを加速させるため、サービス提供モデルおよび持続可能な財政に関するイノベーションについて研究を実施しています。