データ収集ツール

データ収集ツール

WHO Health EDRM ナレッジハブ

データ収集は、複数の情報源からさまざまな種類の情報を集め、まとめ、管理し、分析するプロセスです。課題の全体像を明らかにし、効率的な意思決定と研究の基礎を築くには、標準化された方法で、質の高いデータを収集する必要がありますガイダンス第4.4章を参照)。

一方で、緊急事態において保健医療データを収集し共有することはしばしば難題となります。当センターが助成した文献レビューのエビデンスでは、データ収集・共有・保管に関する標準化されたシステムの欠如、明確なガイダンスの欠如、関係者間の協働の欠如、訓練を受けた人材の不足、信頼性の低いインフラなど、効果的なデータ収集と分析を阻む主な障壁が特定されました。

このような課題に取り組むために、標準化されたさまざまなデータ収集方法・ツールが開発され、国や地域の各レベルや世界規模で使用されています。保健医療データ管理に関してWHO Health EDRMナレッジハブでは、緊急事態における次の3つのデータ収集ツールを紹介します。1. 緊急医療チームのWHO標準ミニマムデータセット診療日報(EMT MDS)、2. 早期警戒警報対応システム(EWARS)、3.日本版災害時診療概況報告システム(J-SPEED)

 

1. 緊急医療チームのWHO標準ミニマムデータセット診療日報 (EMT MDS)

緊急事態発生時、被災地では、地域外からの医療従事者が臨時に医療サービスを提供する場合があります。WHO緊急医療チームの対応を促し連携を導くうえで、国内外の緊急医療チームが提供する保健医療サービスの適時性と質を向上させ、国の保健医療制度の能力を向上させることを目的として、WHO緊急医療チームイニシアティブ班が2010年のハイチ地震後に結成されました。

 

 

緊急医療チームが緊急事態に効率よく協調して対応するのに不可欠な標準化されたデータを得るために、WHOは2017年、緊急医療チームの診療時に必要な情報を収集するための標準化された保健医療データ収集ツールであるWHO標準ミニマムデータセット診療日報(EMT MDS)を開発しました。EMT MDSは日報の形式をとり、緊急医療チームの診療時に4カテゴリー85項目のデータを収集します。

 

カテゴリー1:チームの情報(14項目):組織の名称など

 

カテゴリー2:1日の概要(6項目):診療総数、新入院数、総収容可能病床数

 

カテゴリー3:MDSの統計(50項目):性別、年齢、健康関連事象(外傷、感染性疾患、緊急事態など)

 

カテゴリー4:ニーズとリスク(15項目):コミュニティーのリスク、運営上の制約など

Knowledge Hub WHO EMT MDS
WHO EMT MDSは複数の災害や状況で使用されてきました。「緊急事態・災害時の保健医療データ収集(2020~2021年)」に関するWHO神戸センターの研究プロジェクトのケーススタディーでは、2019年にモザンビークで発生したサイクロンイダイでWho EMT MDSがどのように使用されたかが説明されています。

ケーススタディー1:モザンビークで発生したサイクロン・イダイ(2019年)

2.早期警戒対応システム(EWARS)

WHO早期警戒対応システム(EWARS)は、紛争国や自然災害後などの緊急事態において流行する疾病を迅速に特定し、適切に対応するための質の高い、リアルタイムのデータの必要性に応える目的で開発されました。

EWARSでは、信頼性の高いインターネットや電力のない、困難かつ遠隔地という環境で、サーベイランスや対応活動のためのデータを収集するのに必要な機器をすべて含む「EWARS ボックス」を使用します。WHOは、「EWARSボックス」のオンラインでのトレーニングコースを提供しており、このコースでは、本ツールの主な特徴や機能とともに、現場での「EWARSボックス」設置の概要を包括的に説明しています。

データは施設レベルで入力され、自動的に中央のデータベースにアップロードされます。自動解析により速やかに結果はまとめられ、医療パートナー全員に定期的に発信されます。EWARSは、人道危機に際して公衆衛生の意思決定に役立つデータが得られるだけでなく、人道支援から開発計画への移行期に疾病サーベイランスを強化するための基盤としても役立っています。また、このシステムは二次的な研究データの主要リポジトリでもあります。

ケーススタディー2:サハラ以南アフリカにおける人為的災害におけるEWARS[ガイダンス4.2章を参照]

サハラ以南アフリカにおける武力衝突により、100万人以上の人々がキャンプへの避難を強いられましたが、劣悪な生活環境で社会的サービスへのアクセスも制限されたことから、感染症罹患のリスクが増大しました[10]。南スーダンの保健省は、2016年の7~8月、コレラの流行と23名の死亡を含む累計1160例のコレラ症例を公式に確認しました。症例の多くはジュバで確認され、1日平均35名の新規入院が報告されました。EWARSで収集されたデータは、コレラの症例を追跡し、コレラの流行拡大が予測されるコミュニティーセンターでの経口コレラワクチン接種など、コレラの流行に焦点をしぼった対応につなげることに役立ちました。このシステムは、キャンプと紛争地からの報告の適時性と完全性の向上につながりました。

このケーススタディーは、「災害・健康危機管理の研究手法に関するWHOガイダンス(2022年改訂版)」の4.2章「課題の評価:基本的統計」に記載されています。

3.日本版災害時診療概況報告システム(J-SPEED)

日本版災害時診療概況報告システム(J-SPEED)は、緊急事態や災害の発生時に、ほぼリアルタイムで保健医療データを収集するための国内向けに標準化されたデータ収集・報告用ツールです。J-SPEEDは、患者数や緊急医療チームの診療時に訴えのあった健康上の問題の種類などのデータを収取するために日報形式の標準手法を用いています。J-SPEEDの報告形式にはモバイル端末のアプリやウェブサイトからアクセスでき、データを直接入力することができます。

J-SPEEDシステムは、2016年より、国内で発生した健康上の緊急事態で複数回使用されてきました。当センターの「危機・災害の発生前・発生時・発生後の保健医療データ管理」に関する研究プロジェクト(2020~2021年)における3件のケーススタディーは、標準化された保健医療データが何を明らかにするかを示しています

ケーススタディー3:平成 30 年北海道胆振東部地震

ケーススタディー4:2018年西日本豪雨

ケーススタディー5:新型コロナウイルス感染症パンデミック下と発生前の急性呼吸器感染症の発生率

More information

保健医療データの収集・管理に関する詳しい情報は、「災害・健康危機管理の研究手法に関するWHOガイダンス(2022年改訂版)」の4.4章「良質なデータの収集と管理」に記載されています。