災害を経験した際、人々は驚くべき回復力を発揮する一方で、複数の災害に直面した場合は特に、長期的なメンタルヘルスの問題を抱えることが少なくありません。
WHO神戸センターでは、「心理社会的サポートのエビデンスマッピング(EviMaPS)」における調査を実施し、災害関連のメンタルヘルスと心理社会的サポート(MHPSS)に関する政策やプログラムを特定し、それらがメンタルヘルスに与える影響を評価しました。このプロジェクトはまた、関連するエビデンスの不足を明らかにし、グローバルな政策や実践、ガイダンスへの提言を行うことも目的としました。
主導研究者であるメルボルン大学のリサ・ギブス教授は、日本、オーストラリア、イタリア、アメリカの国際チームを率いて、18カ月にわたる調査を行いました。フェーズ1では、19の国と地域で、92のMHPSSプログラムと9つの政策が特定されました。しかしそれらのほとんどにおいて正式な評価が行われておらず、効果の検証が困難であることが判明しました。研究者らは、エビデンス不足を補完し、MHPSS関連のプログラムや政策を形成する上で、国際的および国内の枠組みが欠かせないと指摘しています。
フェーズ2では、災害関連のMHPSSの政策がもたらすメンタルヘルスへの長期的な効果を評価したものは確認されなかったものの、プログラムの有効性に関する研究がいくつか見つかりました。これらの研究では、症状の軽減やコーピングスキルの向上など、概ね肯定的な結果が報告されています。
EviMaPS調査では、実際のプログラムや政策において、災害関連の国際的ガイドラインと一致する部分と異なる部分の両方が確認されました。研究者らは、エビデンスに基づくプログラム・政策立案を進めるために、評価メカニズムの強化が必要だと提言しています。
MHPSS関連の政策や災害前のプログラム、およびそれらが高リスク集団に与える影響に関する評価には依然としてギャップがあり、これらの課題に対応し、低・中所得国でのプログラムや政策の調査を進めるためには、さらなる研究が求められています。
ギブス教授 は「災害関連のMHPSSプログラムの効果に関するエビデンスは増えつつありますが、政策や災害前のプログラムの評価、さらにはハイリスク群への影響については依然として課題が残っています。これらの課題に対応するためには、さらなる研究が必要であり、特に低所得国や中所得国におけるプログラムや政策の検討が求められています」と述べました。
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