災害・健康危機管理のための人材開発

災害・健康危機管理のための人材開発

私たちは、コロナ禍の経験から、非常事態や災害のすべての局面において、即応可能で、自発性を持つ、有為の人材がぜひとも必要であることを思い知りました。こうした人材こそが、命を救い、災害と苦難を減らし、被災したコミュニティや国の社会経済的損失を最小化できることがわかったのです。コロナ禍は、また、医療従事者であるのと非医療従事者であるのとを問わず、人材不足を悪化させるとともに、医療非常事態対応に備えた人材育成強化の必要性とより強靭な保健医療制度とコミュニティの必要性をも浮き彫りにしました。

WHOは、医療従事者を「その主要な意図が健康の増進である活動に携わるすべての人びと」と定義しています。医療従事者は、医療上の非常事態において不可欠の存在です。しかし、災害・健康危機管理のため働く人びとの中には、保健医療制度以外の領域で働く多くの活動主体も含まれています。例えば、被災した住民の救助・支援にあたる人たち、危険事象や脆弱性を減らすために働く人たち、そして、非常事態への備え、対応、復旧のための能力を作り上げる人たちです。災害・健康危機管理のための要員集団の役割と責任とを定義することは、容易ではありません。

2018年のWHO災害・健康危機管理専門家会議では、人材養成を優先的研究対象として取り上げることの重要性が確認されました。これ以降、WHO神戸センター(WKC)は、研究プロジェクトを積極的に支援し、災害・健康危機管理の分野における人材養成に関するより多くのエビデンスと知識の積み上げにつなげています。

このセクションでは、WKCの助成を得て行われた研究プロジェクト(2021~22プロジェクト2020~21プロジェクト)に基づく知識とリソース、そしてWHOの災害・健康危機管理に関する研究方法についてのガイダンスのうち関連する部分を紹介します。

災害・健康危機管理のための人材開発に関する直近のプロジェクト

一覧

災害・健康危機管理における保健医療人材開発:文献レビュー、事例研究、専門家協議を通じた研究

実施期間

2020年4月 - 2021年12月

連携機関

代表研究機関: 香港中文大学 (中華人民共和国香港特別行政区)
参加研究機関: ハーバード大学(米国)、四川大学(中国)、東北大学(日本)、兵庫県立大学(日本)、東ピエモンテ大学(イタリア)、フィリピン大学(フィリピン)
主導研究者: Kevin KC Hung(香港中文大学)

研究対象地域

グローバル

総予算

US$ 100,000

背景

仙台防災枠組は、特に地方レベルで、防災を一次医療、二次医療、三次医療の各段階に統合することにより、国の保健システムを強靭化することを提唱しました。保健医療人材は、災害・健康危機管理(Health-EDRM)の実現を成功させるための鍵となります。保健医療人材の効果的な開発戦略の構築が急務となっていますが、トレーニング、人材確保、動機付け、派遣、災害現場の人材育成、外部と現地の保健医療従事者間の円滑な連携調整、災害・健康危機管理に関する共通知識と能力に関するエビデンスは大きく不足しています。

目標

  1. 災害・健康危機管理の人材開発の現状について陳述、分類し、育成や教育に重要な要素を特定する。
  2. 緊急事態における保健医療人材とそれ以外の人材の採用、配置、人材確保および保護のための人的資源戦略をまとめる。
  3. 現地と外部の保健医療人材の効果的および非効果的な協働・連携について評価を行う。
  4. 国の所得水準が保健医療人材開発の優先順位にどのように影響するかを研究する。

研究手法

  1. 英語、日本語、中国語で発表された研究(MEDLINE‐1966年以降、EMBASE‐1980年以降、CINAHL‐1980年以降)および灰色文献(1990年以降)のシステマティックレビュー。
  2. 文献レビューへの補足を目的に、主要な専門家へのアンケートに基づくインタビューや二次データソース(CRED、EMDAT、DesInventar、WHO/UNリソース、GIDDなど)を含む種々の方法論を通じた、WHO全6地域のさまざまなハザードタイプを網羅する、少なくとも12の事例研究。
  3. システマティックレビューと事例研究の結果に基づき、各国の政策とその実践に資する専門家のコンセンサス調査を実施し、さまざまな戦略と優良事例についてそれぞれの長所・短所の双方を収集する。 低・中所得国 (LMICs) と高所得国 (HICs) の優先順位とニーズの潜在的な違いを前提に、これら2グループに対して別個のコンセンサスプランを検討する。

期待される成果

  1. システマティックレビュー、事例研究、専門家のコンセンサス調査の結果をまとめた、3件の査読付論文、および、学界論文を含む2件の国際会議発表の作成。
  2. 低・中所得国 (LMICs) と高所得国 (HICs) の効果的な災害・健康危機管理の人材開発に関する専門家のコンセンサスに基づく推奨事項に関する政策概要の作成。

出版物

1. Hung, K.K.C.; Mashino, S.; Chan, E.Y.Y.; MacDermot, M.K.; Balsari, S.; Ciottone, G.R.; Della Corte, F.; Dell’Aringa, M.F.; Egawa, S.; Evio, B.D.; Hart, A.; Hu, H.; Ishii, T.; Ragazzoni, L.; Sasaki, H.; Walline, J.H.; Wong, C.S.; Bhattarai, H.K.; Dalal, S.; Kayano, R.; Abrahams, J.; Graham, C.A. Health Workforce Development in Health Emergency and Disaster Risk Management: The Need for Evidence-Based Recommendations. Int. J. Environ. Res. Public Health 2021, 18, 3382.  https://doi.org/10.3390/ijerph18073382