UHCデーに寄せて WHO神戸センター所長のメッセージ

2024年12月12日
ニュースリリース

毎年12月12日のユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)デーは、どこであってもすべての人が経済的な困難を伴うことなく保健医療サービスを利用できなければならないというメッセージを全世界に呼びかける日です。UHCは、持続可能な開発の達成においても優先課題となっています。

UHCには、必要とする保健医療を利用するにあたり、患者が高額な支払いをしないで済むようにするための経済的保護が含まれます。しかしこの20年で状況は悪化しており、20億人以上が負担の重い保健医療費を支払わされ、そのために、毎年10億人以上が貧困に追い込まれています。

特に高齢者のいる多くの家庭では、費用を負担できずに必要なサービスの利用を断念する、いわゆる医療・社会的ケアのアンメットニーズ(満たされないニーズ)を抱えています。

今年のUHCデーは「健康は政府にかかっている」をテーマとしており、政府が国民の経済的保護に投資し、患者にかかる保健医療費の負担を減らす必要性を呼びかけています。

WHO神戸センターは、UHC達成の鍵となる、持続可能な保健医療の資金調達に関する研究を主要研究テーマの1つとしています。この研究は、保健医療の財政が長期的に持続可能となるように、政策立案者や各国政府がエビデンスに基づいて政策を立てるのを支援することを目的としています。

継続的なケアの資金調達に関する当センターの研究は、低・中所得国において特に重要な意味を持ちます。2050年までに世界の大半の高齢者が低・中所得国に住むことになると予想されており、高齢化の負担が拡大しつつある一方、これらの国では継続的なケアの資金調達についてはほとんど注目されていません。当センターが発行した一連の研究ブリーフでは、人口が高齢化するなかでも経済成長を促すためには、継続的ケアへの投資を優先的に行うべきであるという知見を各国政府に向けて発信しています。

それと同時に、保健医療サービスにおける非効率性の改善も重要です。持続可能な資金調達とは、保健医療の財源を増やすことだけでなく、既存のリソースを効率的に用いて質の高いケアを提供できるようにすることも意味します。経済協力開発機構(OECD)と共同で実施した質の高い保健医療のための価格設定と購入手段に関するプロジェクトでは、UHC達成に向けた教訓が得られました。さまざまな支払い方式について、慢性期ケアの質や健康状態を改善させるインセンティブとしてどのように使用されているかを明らかにしました。

当センターはまた、人口年齢構成の変化が保健医療の支出と財源に与える影響を政策立案者に示すため、「高齢化による保健医療制度の財政的持続可能性シミュレーター(the Population Ageing financial Sustainability gap for Health systems、PASH)」を作成しました。保健医療の支出と財源のバランスがわかることで、高齢化による変化に対応するための政策オプションを政策決定者に示すのに役立ち、目標支出額の設定や財源の多様化などの検討につながります。

今年のUHCデーを迎えるにあたり、すべての人が健康を享受できるように保健医療に投資し、医療費負担による貧困から人びとを守るよう、各国政府に要請します。UHCの達成は、道義的に重要なだけではなく、経済的にも対応が必要な緊急課題です。持続可能な資金調達の仕組みに投資することで、各国政府や国際組織はよりインクルーシブかつ公平で、危機的状況にも強い保健医療制度を構築することでき、すべての人が現在から将来にわたり保健医療のサービスを利用できるようにしていくことができます。