セクション4:研究デザイン

4.14章 災害下における自然実験


著者:Kim HM, Stewart AG, Schluter PJ.


第4.14章では、災害・健康危機管理(Health EDRM)における自然実験の潜在的な有用性について、以下の点に沿って、記述しています。

  1. 災害を想定した自然実験の実施プロセス
  2. 自然実験の枠組みとその成果
  3. 自然実験の重要な長所と限界

本章について

自然あるいは人為的な災害の状況によっては、因果関係を研究するためにランダム化試験のような実験計画を実施することが、実行可能あるいは倫理的に不可能な場合があります。このように研究計画の実施が不可能な場合は、自然実験が災害・健康危機管理に関連するトピックを調査するための代替方法として活用されます。

本章では、因果関係を研究するための代替手法として自然実験について述べています。自然実験の因果関係の枠組みの主要な構成要素を簡単に説明し、自然実験がハザードや災害の状況でどのように使用できるかを見ています。本章では、災害・健康危機管理における自然実験利用の長所と限界について説明し、これらの点を説明するために3つの自然実験のケーススタディを使用します。

本章のケーススタディ

  1. 天候変動に対する子どもの脆弱性:1998年10月ニカラグアのハリケーン「ミッチ」による自然実験
  2. 災害後の住居移転と肥満:2011年東日本大震災における自然実験
  3. パキスタン北部カラコルム山脈における風土病性甲状腺腫の有病率の違い:未認 識の原因を示唆する自然実験

本章のキーメッセージ

  • 自然あるいは人為的な災害の状況では、因果関係を研究するために伝統的な実験計画を実施することは、実行不可能あるいは非倫理的である場合があります。
  • 人々が偶然に、しかし真の無作為化に類似した方法で曝露/治療群と対照群に割り当てられた場合、自然実験は、伝統的な実験と同様に、曝露と結果の間の関係を推測するために使用することができます。
  • 自然実験の信頼性と妥当性は、無作為割付の論拠の説得力に依存します。無作為化により、曝露群と対照群の曝露前の特性が類似していることが保証されるため、観察された交絡因子及び観察されていない交絡因子の影響が緩和されます。
  • 曝露前の特性に関する定量的分析、および状況と過程に関する定性的エビデンスは、自然実験計画の信頼性を確立するために有用です。
  • 無作為または「あたかも」無作為に割り当てるという仮定が説得力を持つならば、因果関係(または治療)効果の推定は、治療群と対照群の結果の平均値の差を取るのと同じくらい簡単です。  
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